2 押出製品の見積もりについて
2-1 やるかやらないか判断
見積もりを出す前に、出来るか出来ないか、やるかやらないか判断しなければならない。判断材料は、次の通り。
1 難易度、a サイズ違いを含めて、同じ形状の製品をやったことがある。
b 形状は似ているが原料が違う。
c まったく違った形状や複雑度などで、難しそう。
d 原料も探さなければならないし、金型もどうしたらいいかわからない。
e 装置についても見当がつかない。
2 設備 a 金型がない。
b 今の装置では出来ない。装置がそのために必要になる。
c 機械がない。
d スペースがない。
3 感覚 a やりがい。
b 客先の期待。
c 自分を試す。
d めんどう。
e 客先の印象。
まったく個人的な判断、相談する相手はいない。「できますか、どうですか」と聞いても答えてくれる人は誰もいない。
2-2 見積もりは、以下の点を考慮して出す。
a 当社のデータにより算出する。
b 客先の要望
c その仕事をやりたいのか、そうでもないのか。
d 難易度
e 他の客先や過去のデータを参考にする。
金型費用をはじめ、まず金銭的に、妙にこだわってはいけない。金型費用にこだわるなら、見積もりは出さないほうがいい。できないと最初から断ったほうがいい。自分が勉強の機会、技術の習得の機会を与えられたことを生かすという考えが第一。会社に最初から利益をもたらそうという考えでは決して、仕事は取れないし、もし、はじめることができても、そう遠くない間にその仕事はなくなるか、大幅な値下げを要求される。その品物が高いか、安いか、どの取引先でも、常に考えるのは当然で、一つの部品として高いと感じれば、安いものを探す。別のサプライヤーとか、別の材料とか、極端に言えば、その品物を早く使わなくて済む方法を考える。世の中に、そう簡単に、うまい話が転がってくるはずがない。ましてや、この時代にである。
もし、スペシャリストになることを目標にするなら、利益のことはまったく考えなくてもいい。客先の利益(要望)が第一、自分の能力を高めることが第二で見積もりを出すべきだと思う。最初、もし、赤字の仕事であっても、しばらくやっていれば、だんだん利益が上がるように、収率も上がってくるし、原料も安いものに交換できるようになる。もし、そうならなければ、自分の能力が上がっていないとか、この仕事は無理と思わなければならない。
2-3 独自の考え
見積もりに限ったことではないが、もし、その考えを批判する人がいれば、その人は保身主義者であって自分からは何も生み出せない人である。マイナスを批判するだけであって、自分が批判させる立場に立たされそうなことからは逃げようとし、自分から新しいことには挑戦できない人である。他人の顔色を伺っていては何も前進しない。悪くするとそういう人は、自分の味方を作ろうと策略する。自分から何かを生み出そうとする人は自分が正しいと思ったことに邁進するだけで、自分の見方をつくろうなどとは思わない。だから、いつの間にか孤立してしまうかもしれない。それを恐れていてはまた、自分の思うようには出来ない。恐れてしまう人にも、向かない。
一般的に要領よくやらない人は、自分では火中の栗を拾わず、人に拾わせる。そのうえ、拾い方について批判する。
仕事があれば、機械が動いていれば、そんなに損をすることはない。機械の稼働率を上げることを考える。機械が足りなくなったら、増強し、また、その機械が稼動することを考える。自分の負担が大きくなるのは当たり前で、自分の負担が大きくなることを恐れる人にはこういうことは絶対できない。負担が増えること、自分にかかるプレッシャーを感じてしまう人には出来ない。またそういう人が批判をする人であり、並の人である。
2-4 他人がにげても逃げない
最初は、勉強だから、仕事を増やし、自らにプレッシャーをかければ、次第に難易度の高い、他人や他社が出来ない、一般的に価値の高い製品を生み出せるようになる。その時、技術料として評価されいくらか高い見積もりでも客先は求めるようになる。技術も何もなく、ただ人から与えられた、借り物の装置でなんとかできる製品で最初から利益を上げようということは所詮出来ない話しである。
2-5 様々な条件
技術以外にも、原料の入手のし方、経路、生産量の大きさ、将来性(一発ものか、どのくらいコンスタントに続くのか、次第に増えていくのか)などその製品に対する読みも重要である。客先の話を最初から鵜呑みにしてはいけない、これもこちらの判断が必要。話半分、ということがあるが。それどころか10分の1とか、逆にそのものが小さい話でも、それを手がけることで、他の新しいアイテムが芋づる式に生まれるかもしれない。こちらが投資してでもやらなければならないと思うときもある。
経験と勘が必要、いくら経験をつんで読もうとしても、これはデータではない。ケースバイケースで頭にインプットされたデータが勘を働かすときに有効に生かせるか生かせないか、これも人による。判断の間違いも、もちろんある。自分で責任を取らなければならない。こと押出の製品に関しては、他の人に判断をゆだねてはならない。逃げてはならない。
2-6 運もある
金型以前に現有設備だけではその製品が出来ない場合がインドネシアでは多い。このことは、スペースについても考えるし、納期も複雑になる。まず、やれるかやれないかを検討しなければならない。大変難しい判断になる。設備的に出来ないといってしまえば答えは簡単だが、ちょっと価格的に高めに出しておいて、それでもやってほしいということになればやらざるを得なくする方法がある。一種の運試しのようなもの。
私の経験からすれば、スペースも設備も、やりだせば何とかなってしまうもの。これも人による。スペースを自分なりの根拠で考え、設備も無理と考え出来ないと結論を出すのは簡単。
スペースを気にする人は、客先から持ち込まれた話が、始まればいきなり、その最大量を生産しなければならないと思うらしい。ストック、移動もスペースは必要、それはそのためだけに作らなければならないと、思うらしい。ほとんどの場合、徐々に増えていくものであって、それにあわせてスペースも増やしていけばよいし、切り替えの速度を遅らせてもらうことも柔軟に考えてもらうことも出来るはず。
2-7 客先の状態、事情。
1 どうしても、すぐ必要で、うちを当てにするしかない。
2 そんなに急ぐわけでもないし、使うにしてもいつごろになるかわからないが、とりあえず、見積もりを取っておく。
3 相見積もりを取り、安いほうから購入する。
4 デリバリーや品質信用、日本人がいる、などの理由で、うちから購入は決めているが、価格を下げさせるために、他社にも見積もり依頼を出している。
5 すぐではないが、当社を当てにするしかない。ただし、日本からの購入価格の6~70%くらいをターゲットにしている。
6 開発商品で、売れるか売れないかわからないが、価格が合えば、テスト的につくってみる。
7 以前見積もりをした、生産もした。どのくらいの期間かは一定していないが、しばらくぶりに生産する再見積もり。
8 長さや原料やサイズなど仕様が変わる。
9 いま、すでにお付き合いがあり、新アイテムが発生した。
2-8 減価償却
そもそも、建物や機械、設備の償却の目的は、新しいものに更新するための費用が利益から控除されることに意味がある。償却終了ごろに生産能力としては時代遅れになり最新の能力を備えた設備に交換しなければ、競争できない、建物は建てかえ時期になる。という考えが前提になっている。
ある金額のお金をかけて、建物、事務設備、その他備品、設備を購入し、それを使い、物を作り、一定の価値を生み出す。そのときにかかる直接費用は、人件費、原料費、消耗費、維持費、通信費、光熱費、梱包、運賃などである。この費用が製品に乗っかっていれば、生産している限り損を増やすことはない。会社が赤字なら、赤字を減らす働きをする。押出の場合、更新をするということはほとんど考えにくい、新規増設をしていくくらいの会社でなければ将来が心細い。
2-8-1 儲からなければやらない、その儲けがどの程度ならやるのか、基準は何か。しかし、利益がなければ仕事をやらないままでは、出費があるだけで収入はない。それでは会社を継続できない。また、技術の蓄積もない。もうけるとはどういうことか、現実にあぶく銭がどんどん入ってくれば誰が考えても儲けということになるが、そんなことは全くといっていいほど有り得ない事。地道に、技術を蓄積し、認められてくれば、向こうから、お金が舞い込んでくる。それが儲けるということだと思う。たぶん、儲からない仕事はやらないという人は、自分を信じられない人なのでしょう。自信がない人だと思う。
借金して、始めたことは、借金の元金を返す必要はまったくない。利息が妥当なら、利息を返していれば十分である。利息を返せなくてそのために借金を増やさなければならないようなら、その分野の仕事は速くやめたほうがいい。
償却しながら、更新費用を貯蓄し、機械を増設するときにそのお金を使う、こんな健全な企業はまず少ない。普通は新しい設備を増やすときは借金も増やす。借金が増えるということは何も悪いことではない。価値を生み出す何かを購入するためだから、生産量を増やすためだから。それが、儲からなければ仕事をしない、自分の見積もりが通らなければ仕事をしない、そんな考えは、始末の悪い乳離れをしない駄々っ子のようなもの。仕事をしたくない、単なる、言い訳に見える。
技術習得とか新しいものの開発とかは投資が必要である。伸びる企業、伸びる国はふんだんに研究費、開発費を使う。仕事をするということは、お客さんからいくらかの収入を得ながら、そのことが出来るという考えなら、こんなにラッキーなことはない。
2-9 見積もりの計算
製造機械一台一台の、アワーチャージ(単位時間当たり、いくら掛かるか、一般的には1分あたり)を決めておく。機械が動いても動かなくても消えていく費用(固定費)の月額を各生産機に割り振る。
a 会社の建物、土地、設備全部の償却費
b 一般管理費(製造以外の部門の費用)
c 光熱費
d 借入金の利息
e 一般事務費、
f 雑費 などなど、が揚げられる。
これらのすべてを合計し、どの機械にどれだけを割り振るかは、均等あるいは、機械の生産能力、機械の購入価格に比例させるなどやりかたはいろいろだが、会社の考え方による。
ただし、前提がる。一日の稼働時間、一年の稼働日数を設定する。24時間にするのか8時間にするのかでは大きく違う。
通常この作業は、次年度の予算を立てるときに設備の増設予定や事業計画とともに、計算され、「来年度はこの数字で行くよ」と、関係部署に通知されるべきものである。
2-9-1 必要データ Ⅰ
アワーチャージが決まっていて、現有設備だけで生産可能なら
a 原料価格
b 製品重量/M
c 生産速度
d 歩留まり(収率)、
e 利益率
この5点が与えられれば製造原価の計算が出来る。
2-9-2 必要データ Ⅱ
必要ならかかる費用(この製品固有の経費)
a 金型
b 装置
c 後加工(装置が必要ならそれも)
d 梱包
e 運賃
2-9-3
製品重量×原料価格=原料/M(A)
アワーチャージ÷生産速度/分=機械使用費/M(B)
{(A)+(B)}÷歩留まり=製造原価/M(C)
(C)×長さ=製造原価/Pcs
金型、装置などは別途払ってもらい、先方の資産にするか、製品に乗せるかである。載せる方法を示し、大体、1個当たりどのくらいになるか、後加工、梱包運賃同じ。
2-9-4
この方法は、正しいが、例えば、自社製品の売り出し価格をどうするかということなら、使えるが。実際問題として、これだけで決めるということはありえない話。そのほかに考慮しなければならないことのほうが多い。この計算自体に前提条件が多いので、また、その条件通りになることは皆無なので、もし、この見積もりに固執するなら、救いがたい。
やりたい、進めたいと思うなら、出来るだけ早く出す。データが少なく判断が難しいときは、仮の見積もりを出し客先に安心感を与えたほうがいい。心配なら、変化しうる条件を書き添えておくといい。当たるか当たらないかはその人による。出せない場合は、その理由を伝え、いつごろ出せるかをはっきり言っておく。いつごろ出せるかもはっきり言えないようでは、その仕事をやる意欲がないと判断されてもし方がない。
2-10 金型費用の算出
金型費用を高くだして、通過するかもしれない。通過しなければその仕事は断ればいい、というつもりなら、高く出せばいいが、その仕事を手がけたいなら、金型で利益を上げてやろうなどと、姑息な考えは排除すべき。純粋に見積もりを取って、あるいは今までの似たような金型の価格から推測し、若干の修正費をプラスし、算出すればいい。金型製作で損をするかもしれないという雑念は、経験をつむとか技術の蓄積をするなどの目的からは、邪魔でしかない。
一種の技術習得とか開発のための投資として考えれば、無料で作ってもいい。仕事が始まれば最初は金型費用の回収できるし、その後は利益になる。利益になり始めるのがちょっと遅くなるだけである。
2-11 結局
自動的に価格が決められるものは別にして、受注生産の会社は、こちらの考え方だけで、価格を決めることは出来ない。客先からの要望を聞き、妥協点を見出すしかない。かなり人的な要素も入ってくる。相手によって、何とかしてあげようとか、やってあげようとか思える場合と、お付き合いしたくないと思う場合がある。その中間辺りも、勿論なる。
出した見積もりについて、あとで、悩まないこと。次の見積もりで考えればいい。
ひとたび決まって、実際に生産が始まってしまえば、もう、お互いに引くに引けない、立場は五分五分に近くなる。そこから新たな展開になるはず。
私の見積もり案計算方法
製品単価=製品重量×原料価格×3(?)
何倍にするかは、その製品と客先に対する気持ちが大いに影響します。
この見積方法で、損をするようなら、その会社のどこかが変でしょう。もし、一生懸命データを駆使して出来上がった見積と比較してみてください。もし、安くても高くてもかけ離れていたら、それは、一生懸命計算した過程のどこかが間違えていると判断してください。
私はいくつもこういう例を見ている。見積を提出する原稿を書くときに値段の数字を一桁間違えたり、数字を0にしてしまったりすることがある。サインをする人間がチュックできない人の場合、殆ど,眼暗ハンの場合、そのまま客先に言ってしまい。それに気がつかず何年も改定されないで作り続けている。人が交代するとき初めて分かる場合がある。本人は全く疑わないからである。