ブランドスラット

  Blind Slat

A 1996年から1999年、インドネシアで技術指導をしていた3年間、知らなかったが、日本ではプラスチックのブラインドスラットの熾烈な開発競争が繰り広げられていたのでした。

別の項目で触れるが、日本へ帰ってすぐ取り組んだテーマは、押出方向で樹脂量や色を変化させて、その技術で何かできないかということでした。まず考えたのが、たまたまブラインドというかスリガラスのような感じで、いろいろな色でサンプルを作ってみた。押出方向での色の変化は、魅力的で各方面から興味を持って見られると思った。

B そのサンプルをブラインドメーカーに持ち込みたいと,商社に相談を持ちかけたところ、Tブラインド訪問が実現した。それが、1999年11月、日本へ戻ったのが8月でしたから、3ヶ月後でした。その時すでに翌年8月にはN社の関係で、フィリピン(後にインドネシアに変わる)へ赴任する腹がほぼ決まっていた。

 同行してもらったのはO社のS君、タチカワブラインドで応対してくれたのはM君、二人とも多分30歳そこそこの若者でした。Mさんはこのプラスチックブラインドのプロジェクトを任されているというより、全社期待のうちに4年ほど前から取り組んできて、今では皆さんから見放され、消滅寸前の状態のところの敗戦処理役みたいなものらしかった。 

早速、サンプルについて話始めると全然話に興味を示さず、透ける物はだめだという。いきなり、M君、新規の話どころではなかったのでしょう、現実の問題で藁をもつかみたかった。サンプルを取り出し、「こういうもの出来ますか?」見せられたのはブラインドスラット用に作られたPCの板でした。艶はバラバラ、幅も一定していない。「できます。スケジュールどおりにサンプルをだせます」と、即答した。ところが、続けて、条件をぽつりぽつりと出してきた。

ずーと昔、北川工業の創業社長と初対面をしたときのことが頭をよぎった。年齢はかなり逆だが、状況は非常に似ていた。その時よりはるかに難題だと思った。

 1 幅の寸法公差 ±0.5 「ぜんぜん問題ありません。±.3で、できます。」

 2 つや消しの状態をこれとこれの間くらいで安定してできますか?「できます。」

 3 静電気がおきないように永久帯電防止の原料で成形できますか?「できます。」 
  
 帯電防止として界面活性剤を配合した原料は永久どころか半年効果があればいいほうだ。ということらしい。「本当にありますか?」「あるはずです」。相手に不安を与えないようにすべて即答した。実際はどれもこれも確証は全然なかった。結局、「やってもらえるなら、サンプルを作ってみてください。」ということになった。「3ヶ月待ってください、出せなければ金型費用は要りません、私の勉強にもなりますから」。「勉強ではこまります、絶対作ってください」。 

C 三菱エンプラと帝人に問い合わせてみた。帝人のほうは「現在持っているゲレードには永久帯電防止の原料は無い、ポリカABSの界面活性剤いりならある。また新規にグレードをテストする余裕は無い。」でした。三菱のほうはどうかというと、「昔、何かそんなようなものを作ったことがある、調べてみます」という返事、かすかに期待をかけた。なんと、三年ほど前に作った原料で、現在デッドストックになっていて廃棄処分リストに200kgあるということでした。ラッキー!

 パンガンダランの友人達





   早速、その原料をいただき、板を作ってみた、艶消しの具合はまあまあ、寸法もほどほどOK、あとは永久帯電防止の効果があるのかないのかのテスト、これもみごとにOKでした。驚きでした。あれから、3ヶ月後、初回のサンプルを出すことができました。今まで、やってきたK社の開発はその間もストップ状態だったらしい。「K社には断ります。全面的にお願いします」ということになった。それでも、上司や、そのもっと上の方たちと会うことはできなかった。今までの経緯があるので、信頼が回復されていないのでした。

 営業がサンプルとしてカタログとともに持ち歩くための、スラットの標準色見本を5種類依頼された。いさんで原料を手配し、試作にかかった。残された期間は約半年しかない。ところが、とんでもない問題がいくつも出てきた。  

1 原料によって口金からの樹脂の出方が違った。

2 ロットによってつやが違う。

3 製品のそり具合をコントロールできなくなってしまった。

それらが色によるのか、ロットによるのか、はっきりしない。何とか、良いとこ取りでサンプルを持っていったら、また難題を増やされた。

指摘されたこと。 

1 透けて向こうが見える。遮光性がたりない。

2 自己消火性は?難燃性は?

3 耐候性は?

4 耐衝撃性は?

およそ考えられる物性のすべてを要求された。考えてみれば、ブラインドとしては当然求められるものばかりでした。とにかく、その場は、製品の見本としてはOKが出て胸をなでおろした。しかし、まだ、できているとはいえないのだから、周りはだんだん安心する期待するに従って、私のほうは心配事が大きくなった。もう絶対後には引けなくなった。

 その後、三ヶ月のあいだ三菱エンプラ技術研究所の添加物の専門家の方たちに、原料試作お願いした。静岡と平塚を何度か往復し成形試作を繰り返し、何とかすべての条件をクリアすることができた。Tブラインドの物性テストも合格した。一応、原料についてはこれでいくというものが出来上がった。しかし、この間ずっと、解決できない問題があった。社内の人間には愚痴が出たが、誰が手助けできるわけでもない、考え続け、金型を修正してはトライを繰り返していた。

 その問題というのは、口金は0.6mm×30mmの隙間になっている。その隙間から出てくる樹脂の厚さが、流すたびに異なる。いくら金型を修正してもその修正どおりになってくれない。逆になってしまったこともあって、謎は全く解決できない。そんな状態の中、MEPからもらった耐衝撃性をアップさせた原料でトライしたところ、MEPの予想結果と逆により、パリパリになってしまった。MEPも悩ませてしまった。こんなことは客先や商社には口が裂けてもいえない。そのうち何とかなるだろうと思っているわけにはいかなくなってきた。焦りを感じていた。そうしているうちに、ある程度、量産試作と兼ねてということで、各色200Kgずつ、スラットのサンプルの注文が入ってしまった。

大変なことになった。今までは良い所取りでサンプルをだせばよかったが、今回はそういうわけにいかないし、色合わせをした原料も有償になっている。悩み続けていて、話は深刻になってきた。黙っていられる状態ではなくなったと判断し、Tに事情を打ち明けて、しばらく納期を延ばしてもらうことに決心をした。

驚いたことがおきた。Tに了解を求める前にもう一度トライをしてみようと、いつも使っていた40mmφ押出機で準備してあった。その日の朝、「どうしてもその押出機を生産に使いたいから、空けてもらえないか」といわれた。しぶしぶ、承知して、隣の空いている押出機50mmφに金型をセットしなおし、流し始めた。なんと、今まで悩み続けていたことが一挙に解決してしまった。こういうこともあるということは前から意識はしていた。しかし、実際には押出機を変えることを思いつかなかった。口金から予想通りの厚さで樹脂が出てくるようになったし、なお且つ、若干問題視していたつや消しの不安定もほとんど解決してしまった。衝撃性もMEPの目論見通りアップした。やはり、練りがたりなかったのか、これほど見事に影響する樹脂もめずらしい。残り3ヶ月、危なっかしい綱渡り曲芸師のように何とか危機をクリアしてしまった。冷却金型の内面に耐熱剤が付着してしだいに狭くなり、長時間連続運転できないとか、ふくらみのアールや全体の反りの上むき下むきのコントロールはどこをいじればいいか、など、運転状況の把握と改善に取り掛かった。 




間もなくブラインドに組み立てられ本物のプラスチックブラインドが姿を現した。第一号である。                                   

 

 初めての量産注文が入った。それと相前後して、Tの偉い方々が当社に挨拶かたがた様子を伺いに来た。はじめは,半信半疑なので見向きもしてくれなかったが、だんだん、これはいけるかなと感じ出してくれたのでしょう。もっともです。さんざん、ある程度の能力を持った会社が必死になって手がけてきて、いまだに出来上がっていなかった代物で、ご自分たちは、かかわりを持ちたくない気持ちで、若者に任せていたのですから。それを、約半年で見通しを付けたのですから。

 T以外でもプラスチックブラインドスラットは売り出され始めているが、単なるPCというだけで、それも、まだまだ安定供給とまでいっていない。インドネシアへ再赴任する一週間前やっと初めての納品が終わり、実際、自分が作ったスラットのブラインドを目にしたとき大変美しく見えた。太田化工の南に面する窓に、耐久テストを兼ねて何連か取り付けられている。何年か過ぎた今も、自画自賛で美しく見える。永久帯電防止の効果か、埃が付いていない。

 それ以降の問題として、せっかくの良品が輸送途中に変形してしまうということがあって、輸送方法や梱包方法をなお改良しなければならなかったようでした。

G この商品の特徴的物性は、結局、ポリカペットで永久帯電防止性、遮光性、自己消化性、耐候性、耐衝撃性、耐熱性、つや消し、よくこれだけの物性を盛り込んだものだ、三菱エンプラの研究者の方々も巻き込んでやっと完成した。たくさんの何とか剤がどのくらいの比率で入っているのか知らない、知りたいと思うことがMEPの方たちに失礼。求める機能を備えていればいい、それを製品にするのが成形屋の仕事。

バリニルワナゴルフ 海越えのショートホール。向こうにタナロットが見える。