○ 素材(丸棒、板)
金属材料と使われ方はおなじ、現在は、あらゆる樹脂の素材が生産されている。ウルトラエンプラの素材もある。いろいろ混ぜ物をしたものもある。
私が始めて、経験した原料は、66ナイロン、6ナイロン、POM、ABS、PP,HDPEでした。続けて、PC,LDPE,PMMA,11ナイロン、12ナイロン,GL樹脂、PBTなどなど、添加物では、ガラス繊維、グラファイト、二硫化モリブデン、炭素繊維、炭酸カルシウムなど、日本の市場に売り出され始めたばかりの原料のことごとくで、試作依頼があり、物性テスト用として原料メーカーに提供していった。中に水に溶ける樹脂があったりして、成形した後、表面がべたべたしてしまい、何につかえるのだろうかと、首をかしげたこともあった。この辺りの仕事は大変面白かった。GLは成形後大気の水分で変色したりクラックがはいったりした。こちらの責任ではないのだが、売れるのかなと、心配した。PC丸棒を担いで、三島から神戸の三星ベルトまで行ったこともあった。現在でも見かけることができるソフトクリーム製造機の前面真ん中に、真っ白なPOMの一本足の天狗の高下駄のような形をしたものがついていて、それにコックがついている。そこからソフトクリームが出てくる。一色用と二色だが真ん中は両色用の二種類作った。この成形は、断面形状は簡単にできるのだが、製品がそっくり返ってしまい、まっすぐなものができなかった。後でまっすぐにしてアニーリング処理(後に発癌物質と断定された、六価クロムなども使った)でなんとかした。今はどうなっているのでしょうか?こういった機械に会った時や、MoS?入り製品の独特な縞模様に出会うと懐かしい。
当時は、東プラ精工だけではなく、何とかエクストロンとか何とか軽素材という会社も素材は作っていた。しかし、それらの会社の製造装置がどんなものか知らなかった。POMの異形(ソフトクリームの製造機用)は、中部エクストロンができないからと言って、私に頼んできたものでした。なぜ、その時、自社でできないのか疑問に思っていた。それが、つい最近、富山の素材成形屋さんにいって、装置を見せてもらった。これじゃ、できるわけがないや、っと、思った。ただ、押し出すだけの簡単な装置だった。速度も、メチャクチャ遅かった。遅れていると、思ったが、そこは、切削など、後加工までやって、付加価値を高めていたので、一応、商売になっているようだった。
A プラスチックの素材の製造は、いわゆる固化押出という装置産業であって、製品のサイズを変えるときは、金型と引取機のロールを交換した。クレーンを使っての鉄の固まりの重量物の交換は大変手間のかかる仕事で、できるだけ交換はしたくなかった。
固化押出の特徴は、押出機と溶融金型と冷却金型が一体になっていて、ホッパーに原料を投入してやれば、後は、表面は固まった状態で製品が冷却金型から出てくる。それを引取機で引き出すか、逆にずるずる出てしまわないように、ブレーキをかける。冷却金型の長さにもよりますが、速度は100φで5mm/min,200φで1〜2mm/min。非常に遅い。50φ以下は、多数本取りになっていた。板も同じようなものだった。大きな押出機はいらない30〜40mmで十分でした。押出機の次に圧力調整弁をつけ、押出圧力が一定になるようにする。スピードを上げると気泡(スと言っていた)ができやすいし、スができないにしても歪が大きくなって、素材の物性に問題が出る。
引き取り体積と押し出し樹脂量が必ずしも一致しないので、押出機と溶融金型の間に圧力を調整する装置が必要になる。製品が出てくるまで密封状態なので、常に樹脂圧を一定に保たなければならない、また、製品によって圧力の設定を変えられるようにしなければならない。
当時、押出機は電磁クラッチ付で一定範囲内の圧力でON,OFFが自動的に繰り返されるようにした。現在はサーボモーターを使っている。
基本的には何十年もの間、成形方法は変わっていない。冷却筒を長くしたり、型離れを良くするためにテフロンコーティングをしたり、多数本取りの本数を増やす程度。
B 素材の生産での問題点は、
1 表面状態
2 中心付近にできるス(小さい空洞)
3 焼け
4 歪み
表面にささくれや焼けがでて商品価値が落ちる。最大の原因は、溶融部と冷却部との断熱効果がよくないこと、急冷すればするほど表面がすっきりする傾向があった。内側から外側に引っ張られる歪の除去については、ナイロンは吸水、その他はそれぞれの適正温度でアニーリングをしている。この歪については、十分除去しないと、製品が加工中に変形したり、最悪は刃物が触れるか触れないかの時、爆発するように木っ端微塵に砕け散ったりすることもある。POMは特に注意、用心用心。
C この仕事にかかわりだして間もなく、ある日、成形装置の横に立って、装置全体と製品の動きを眺めていた。ふと気がついた。製品が一定速度で出てくるのではなく、一定間隔でトントンと断続的に出てくる。そのため表面に押出方向と直角に縞模様がついている。そういう状態のほうが、十分樹脂が詰まっていてスができる確率が少ないし、冷却不足で、金型から出たところでパンクしてしまう可能性も少なかった。素材成形サイクルという概念を思いついた。
樹脂 充填 冷却、収縮、引き取り、充填 冷却、収縮、引き取り、
圧力 上昇 上昇 最大 下降 上昇 上昇 最大 下降
その後この考え方を基本に、品質向上とスピードアップのため成形装置全体に改良を加えていった。
D 金型を解体してみると溶融部から冷却に移行する部分に焼けた樹脂が引っかかっていることが多い、また、その部分の金型の変形が激しかった。一番、圧力が大きくなる部分だし、金型自体の熱膨張と冷却収縮がある部分だ。
経験を積み重ねると、断熱がよければよいほど、急冷ができていればできているほど、製品表面はきれいだし、成形サイクルも、小さく、より規則的になることがはっきりしてきた。
断熱効果をあげることと断熱部の変形をなくすことは、相反することで、溶融部と冷却部の連結部分はもっと薄くしたいが、そうすればより変形しやすい。
金属材料と加工精度の問題で、私が希望する部品を手に入れられるかどうかは、その時代の能力による。当時は、結局、厚さ0.8幅5mmで連結させることができた。それで、一応満足しました。現在この固化押出の仕事はしていませんので、どうなっているのか知りません。
E 独立後、自社で固化押出をやらなかった理由は
1 素材のメーカーは何社かありますが、おおむね、原料メーカーの子会社、系列会社でそれぞれの樹脂をやすく提供されて作っている。
2 商売としてサイズ揃えをするには何億という資金が必要。
3 押出機をはじめ装置すべてがそれだけのためにしか使えない、融通が利かない。
4 技術的に成熟していて、研究余地がない。
5 一種類、下請けでやるにしても、そのために多額の投資が必要。
技術的なお手伝いやアドバイスはできるが自分でやろうとは思わない。人にもあまり薦めない。
F5φ以下の丸棒
あまり細すぎて、固化押出では出来ないので、溶融押出で作る。圧力は全く掛けないので、巣が出来やすい。水冷15℃くらいの場合、6ナイロンなら、素引き(プレートに穴を開けただけ)で、丸い、巣の無いものができる。その他の樹脂は徐冷が必要です。勿論生産速度は装置の長さにもよるが、固化押出に較べればはるかに早い。
PE,PP,60℃近辺、POM,PCは100℃前後で徐冷する。60℃は灯油で、100℃はポリエチレングリコールを使う。冷却層は出きるだけ浅くし、幅は狭く、雨樋のようなものがいい。出きるだけ油の重圧を小さくしたい。循環させ一定の温度に保つようにする。
引取機は本当の意味で引き取り機ですが、ロールやベルトにゴムは向かない。手ではすぐに触ることが出来ないほど熱い製品を引き取るからです。
取れた熱い製品は空冷でさめるまで待つのは当然である。巻き癖が着くので、其のことには配慮する。
全然、別な話として、電子レンジの反対、つまり、物体の中心から熱するのではなく、物質の中心から、冷却する方法はないもでしょうか、この世にあるのでしょうか、もしなければ、考えそうなものだ、と思うのですが。もし在れば巣の事を完全に解決できるのですが。
Borobudur