現場からのプラスチック押出成形
○ 隙間のローテク
押出成形をやっています、と言って、どんなものを作っているのか分かる人は殆どいない。プラスチックの成型です、というと、射出ですか、と、言える人はいるが、最初、押出といっただろう、と口に出さないで言う.。それほど、知る人は少ない。シートや袋も押出だがそれらは、装置産業であって、なんでも押出品なら引き受けるという会社ではない。私が押出成形というのは、装置の規模で出来る範囲の大きさのものなら、どんなものでもやってしまうという技術を持っている会社や人がやっています、と言えるものです。
インドネシアで其の技術指導を始め、指導する為に、仕事を取った。取りあえず来るものは拒まず、またこちらから求めずという姿勢でやった。パラマウントベッド、TOSO、ABA(日本名アラコ)、SUNYOなどから依頼があって引き受けた。中には、明らかに大変難しい仕事もある。また、原料入手が困難な製品もあった。
日本のどこかの会社の方が、何年もかけ、やっと作り上げた製品の輸出が、あっさり、インドネシアの私の会社が半年もかからないうちに取って代わってしまうのですから、日本の技術者はそんなことは有りえないと思うことでしょう。また、車の部品などで、日本で脱塩ビとして、PPやPEでトライ中の製品を、私の方から現地企業にPPで提案し、あっさりに三ヶ月程で、客先にOK品のサンプルを提供してしま。日本で、トライしている会社は狐につままれたような話しになってしまう。インドネシアで押出製品の製品なら何でも引き受けてやってしまう会社は私のところしかない。
成り行きか、運命なのか、40年以上かかわってきた仕事は天下のローテク、プラスチックの押出成形である。それも、塩ビ以外のオレフィンやエンジニアリングプラスチック。その製品を必要としている箇所の大部分は、俗に言うハイテク製品、これらの商品の中にひっそりと目立たず、何かの保護のためであったり、軽量化であったり、強化であったり、重要な役割で潜んでいる。形状は複雑ではなく小さい。物性は多岐にわたる。難燃、耐熱、耐摩耗性、耐候性、耐アーク性、導電性、永久帯電防止性などなど、およそ考えられるすべてのものが、使う場所ごとに求められる。
よく、どういう方面に使われるのか聞かれる。方面はない。どこからどんな話が飛び出してくるのかわからない。商品を売るのではなく、技術を売るのですから、営業はしにくい。商品を持って歩くのではなく、こういう技術を持っていますが、何か御社のお手伝いができますか、ということでは、なかなか仕事につながりません。そこで、「できますか、」と聞かれたとき、首を傾げて「わかりません」では、仕事は取れそうにない。まず、技術的に世間に認知されることが必要、認知されてしまえば口コミで、商社、原料メーカー、押出関連装置会社などから紹介が入るものです。
その技術というのは、実はローテクなのです。いまだに口金や冷却金型はヤスリで削ったり、タガネやポンチで叩いたり、溶接で盛ったりで、どう見てもハイテクとは、思えない。
熱い樹脂を掴んで、金型に通す。慣れないうちは、火傷は当たり前、製品の寸法を安定させるために、水槽の中で、何かで押えたり、エアーを吹きかけたりで、技術でございと言って他人に見せられるような代物ではないことが多い。重要なノウハウが漏れてしまうから現場を見せたがらないのではなく、やっていることがあまりにも単純で人に見せるのがみっともないからというほうが当たっているかもしれない。
比較的大型の押出品の原料の80%以上がPVC。オレフィンが10%ほど、その他が残りということらしい。エンプラの押出は断面が小さいものが多いし、ロットも小さい、一回の生産が500Kgあれば多いほう。10Kg製品にすれば一年以上注文がないというものも珍しくない。樹脂により、大きさにより、断面形状により、厚さにより、また、コーティング、多色、すべて成形方法が違う。そのたびに金型を交換したり冷却方法を変えたり、カッターや巻取機なども交換しなければならない。場合によっては押出機内もきれいに磨き上げなければならない。
我々は、それを当たり前でやっているが、経験のない企業にとっては、当たり前でなく、かなり難しいことで、手を出しにくい。そこが隙間なのです。人が避けること、会社の規模が大きくて小回りが利かなくて、できないことをやる。一番、目が細かい篩のようなもの、大きな目の篩からだんだん目が小さくなって最後にこぼれてくる難しい仕事をこぼさないようにする。これが私たちの仕事だと思っている。利益はほどほどあればいい、技術者としてのプライドを示せればいい。インドネシアでは来る話は拒まず、何とかしてやる精神が必要。インドネシア人スタッフや多くの日系企業から頼れている。
現場第一主義者の気持ちとして、強調したいことは、人もそうですが、仕事の内容もそのとおりで、見かけではありません。説明してもわかってもらえない難しさがあるのです。また、現場人間は説明が上手でない人が多いような気がする。その日の体調とか気分とか気候まで影響する場合もあり、数式や数値では処理できない部分です。なんとか研究所やなんとか大学の方たちは、既にあるものを探し出しているに過ぎない。専門書といわれる本にもない、インターネット情報にもない、機械に向かわないで、机上で何かを求めても、全く意味がない。体得するのではなく、安易にほかから助けを求めようとする人はこの仕事に向かない。職人的ひらめきと実行力が大いに必要で、人によって向き不向きがはっきりしています。ハイテクが入り込めない部分です。
押出は勘が先で理屈は後です。少ない専門書でも、書いてある内容は誰かが成功したものに、理屈を後付けしているだけだから、現場人間にとっては何の参考にもならない。同業の方々なら、このことは皆さん、そう思っていることでしょう。